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文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(38)
高齢者ではワクチンの効果が低いことが知られています。 つまり高齢者ではワクチンを接種しても必要な抗体が十分 に産生できないことが多いということです。
このことは昨今のコロナワクチンでも指摘されていることで、特に高齢者の感染症をワクチンで予防するという観点か らは大きな問題になっています。この原因としてあげられるのが、高齢者では抗体産生に関係する細胞の機能が老化しており、ワクチンに対して応答する機能が減弱していることです。ですから、この機能を高齢者で増強することができれば、高齢者にもワクチン接種による高い予防効果が期待できることになります。
抗体産生は、脾臓やリンパ組織にある、胚中心という特別な組織で行われます。そしてこの機能にとって重要な役割を担うのが、リンパ系間質細胞です。ですから、高齢者でワク チンに対して応答する機能が減弱するのは、高齢者では免疫細胞の老化というよりはリンパ系間質細胞が老化することが大きな原因である可能性があります。
この点に関連して、ケンブリッジ大学バブラハム研究所免疫学プログラム Alice E Dentonらは
Targeting TLR4 during vaccination boosts MAdCAM-1+ lymphoid stromal cell activation and promotes the aged germinal center response Sci Immunol. 2022 May 06; 7(71): eabk0018. doi:10.1126/sciimmunol.abk0018.
において、加齢によるワクチン効果の減弱の原因を追及するとともに、この機能低下を予防する方法として、TLR4の刺激が必須となることを報告しています。
著者らはマウスを使って研究を進めています。抗原には化学物質にキャリーアータンパク質を結合させたモデル抗原を用い ています。一連の実験から、著者らは高齢者のワクチン効果の減弱(抗体産生低下)は胚中心の微小環境に存在する特定の間質細胞の老化であることを示しました。抗体産生にはB細胞だけでなくT細胞も関係しますが、著者らによるとT細胞は加齢による大きな影響を受けないようです。
加齢によるワクチン効果減弱を防ぐ方法に関しては、著者らはRNA解析の結果などから、TLR4(LPSが結合する受容体)が鍵を握っていることを見出しました。そこで実際にLPSをワクチン接種と同時に投与すると加齢によるワクチン効果の減弱は防げて十分な抗体産生が得られたことを報告しています。
著者らは、今後、さまざまなアジュバント(免疫補助剤:例えばLPS)がリンパ系間質細胞細胞ネットワークをどのように変化させ、免疫にどのような影響を与えるかをさらに研究することで、合理的なワクチンの開発が可能になると考えられる、としています。
高齢者に対するワクチン効果増強の観点でもLPSは有力な物質に違いありません。
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