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文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(21)
LPSの経口投与により脳のマイクログリアが活性化してアルツハイマー病を予防することは、我々も既に報告しているところです。
このことに少し関連すると思われますが、従来獲得免疫ではよく知られており、獲得免疫の特徴でもある免疫記憶が自然免疫にも存在することが明らかになりつつあります。
自然免疫の免疫記憶はいったん起こった細菌感染などによる炎症について、同一の細菌感染が起こった時に炎症を誘導しないように働く機能も含まれているようです。また自然免疫の記憶は、感染が殆んど起こることがない脳内でも認められ、その記憶の中心にある細胞がアルツハイマー予防にも大きな役割を果たすマイクログリアであるとのことです。
そしてマイクログリアの免疫記憶は、脳と無関係な末梢での感染に対しても誘導されるとのことです。どうして感染場所から遠く離れた脳内のマイクログリアに免疫記憶が成立するかに関しては不明のままでした。この点に関して、
Ann-Christin WendelらがNature (2018) http://doi.org/10.1038/s41586-018-0023-4
において感染症に代わる方法としてLPSを腹腔内に投与する方法を用いて調べた報告が発表されています。
免疫記憶にかかわる種々の実験が行なわれていますが、ここではLPS投与とマイクログリアの活性化の状態及びアミロイドβに対する作用に関して概説します。
彼らはLPSを1回腹腔に投与することと、複数回(顕著に差が出ているのは4回投与)投与することによるマイクログリアの状態とこれに伴うアミロイドβ除去作用に関して調べています。
マウスはアルツハイマー病のモデルマウス(APP23)を使用しています。著者らが調べた結果では、LPSを1回投与した場合にはアミロイドβの蓄積が進みますが、4回投与するとアミロイドβの蓄積が減少し、さらに神経細胞死も減少するとのことです。
そしてこのような状態のマイクログリアの免疫記憶は6週間程度は継続することも報告しています。著者らはLPSの1回投与を免疫トレーニング、4回投与を免疫寛容と名付けていますが、この考え方は必ずしも正しいとは思えません。 この実験とLPSの経口投与によるアルツハイマー病予防がどの程度の関連性があるのかは現在のところ不明ですし、この論文に関してはまだ証明しないといけない内容が沢山あることが指摘されています。
しかし、LPSの投与により一定の条件(しかも複数回の投与)によりアミロイドβや神経細胞死が減少してアルツハイマー病予防に繋がるとの知見はLPSを継続的に経口摂取することの意味やそれによるアルツハイマー病予防の機構の一端を示すかも知れず、今後の研究展開に興味が持たれます。
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