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文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(15)
2016年のノーベル生理・医学賞が、大隅良典博士に贈られることになったとのニュースは誠に喜ばしいことです。受賞対象となった研究内容が基礎研究であるだけに日本の基礎研究のレベルの高さを示すことにもなったと考えられます。
受賞内容となった研究は「オートファージー」です。オートファージー (Autophagy)とは、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つです。細胞内での異常なタンパク質の蓄積を防いだり、その他タンパク質に異常がある場合や時には病原微生物を排除する際にも働いて恒常性の維持に関係しています。
ところで、認知症は大きな社会問題でどのようにして認知症を予防するかは超高齢化社会が抱える極めて重要な課題です。認知症の中にアルツハイマー型認知症がありますが、この認知症の発症にはアミロイドβというタンパク質や細胞内に蓄積するTauタンパク質が原因であるという考えが広く受け入れられています。
この点について、Yiren QinらがJ. Immunology published online 7 September 2016に LPSはTauタンパク質を過剰発現するアルツハイマー病に有効である、という論文を発表しました。そして、LPSがアルツハイマー病に有効である仕組みの一つとして発見したのがオートファージーの活性化です。著者らはTauタンパク質を過剰発現してアルツハイマー病を発症するマウスにごく微量のLPS (0.15mg/kg:この量はマウス1匹当たりに換算すると、3ug/マウス程度になります。)を腹腔内に1週間に一度ずつ12週間連続して投与して病態がどのように変化するか、また変化するとしたらその仕組みは何かについて調べました。
LPSの微量の投与により、対照に比べると明らかにアルツハイマー病の病態が軽度であることが分かりました。その結果、LPSの微量の投与により、神経伝達物質や炎症性サイトカインの発現が有意に上昇する事や、マイクログリアの数が増加する事、そして、神経細胞のオートファージーを活性化することを見出しました。言うまでもないことですが、これらの働きはLPSの受容体であるTLR4に依存していました。これまでに、LPSはアルツハイマー病に有効ではないかということを示唆する論文はありましたが、この論文はその仕組みにまで及ぶ研究となっているところに意味があります。
著者らは、継続的で温和なマイクログリアによる炎症状態はアルツハイマー病の原因になる神経細胞中のTauタンパク質をオートファージーの機能を介して除去することに有用であるとしており、将来的には、アルツハイマー病に対する新規な治療法を提供する可能性があると総括しています。
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