
文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(10)
マクロファージは全身のあらゆる組織・器官に存在して、組織の恒常性の維持や感染防御や組織修復に必須の働きをしています。
組織修復はただ損傷があるところを埋めれば良いと言うものではありません。組織には正しい構築があって通常非対称です。即ち立体的な方向性や階層性があります。
従って、組織が修復される場合にはこれらの構築が元通りに正しく復元される必要があります。それでないと修復された組織が元の組織と同様な機能を果たすことができなくなってしまいます。
このような正しい組織修復にはマクロファージが重要な働きを担っていることは例えば皮膚の傷の修復などでは知られていましたが、末梢神経の再生にマクロファージが必須であることが以下の論文で紹介されています。
Anne-Laure Cattin et al. Cell 162, 1127-1139, August 27,2015
末梢神経が切断されると、その神経は修復されることが分かっています。そしてその修復には神経線維が伸びるだけでなく神経を取り巻く細胞であるシュワン細胞が集合する必要があり、その為には方向性を持った血管新生が必要になります。これら複数の構造が誤りなく組織化されて起こらないと正しい神経の再生はできません。この正しい構造の組織化 にマクロファージが必須の働きをしています。
神経が切断された部位では血管も切断されていますから酸素の供給が断たれて低酸素状態になります。この低酸素状態をマクロファージがキャッチして集まってきます。そうするとマクロファージはVEGF(血管内皮増殖因子)を分泌して、切断部位を正しく結合するように血管の新生を促します。
神経の再生はまず切断部位に正しい方向性を持った血管が 新生され切断部位を連結することから始まる訳です。血管ができるとその部位には酸素が供給されるようになるので他の細胞が増殖することができるようになります。
また新生された血管は神経が再生する際には、いわば道路のような役割を果たして、血管に沿って神経が再生できるように案内役を務めます。事実次に起こる神経の軸索の進展やシュワン細胞の増殖は新生された血管に沿って行われて、切断された神経が再び結合することになります。
マクロファージの生理的意義に多くの注目が集められるようになっています。神経の再生にマクロファージが必須の働きをしていることは、現在も解決されていない手術による神経切断による後遺症などを解決する上で有用な知見であると考えられます。
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