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文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(34)
今回は私たちの論文を紹介します。以下の論文で溝渕主任研究員らは、糖尿病により誘発される認知症モデルを活用して経口投与したLPSと組織マクロファージをつなぐ生理活性物質の同定に世界で初めて成功しました。
この論文はLPS経口投与がどのようなメカニズムでいろいろな疾患の予防や治療効果を含む健康維持機能を発現するか、というこれまでどうしても明らかにすることが難しかった疑問に突破口を与えるという意味でも、大きな社会問題である糖尿病性の認知症を経口投与LPSで予防できるということを証明したという意味でも、画期的な意義を持つ論文と言って過言ではありません。
Prevention of diabetes-associated cognitive dysfunction through oral administration of lipopolysaccharide derived from Pantoea agglomerans. Haruka Mizobuchi*, Kazushi Yamamoto, Masashi Yamashita, Yoko Nakata, Hiroyuki Inagawa, Chie Kohchi, Gen Ichiro Soma Front. Immunol. Molecular Innate Immunity DOI: 10.3389/fimmu.2021.650176
そのカギは膜結合型CSF-1です。膜結合型であるので細胞間接触で機能することも、経口投与のLPSには副作用が認められないこととよく一致します。CSF-1は生体恒常性維持に不可欠な多様な生理活性を持っているので特に注目されているサイトカインの一つです。
私たちは、経口投与によるLPSが健康維持機能を示すメカニズムとして、経口投与したLPSは組織マクロファージ間のクロストークを誘導し、その結果生まれる組織マクロファージのネットワークが重要だとするマクロファージネットワーク理論を2006年に以下に提示しました。マクロファージネットワーク理論の概念図はこの総説が掲載されたJournal of Bioscience and Bioengineering102(6)(2006)誌の表紙に採用されています。
Chie Kohchi, Hiroyuki Ingawa, Takashi Nishizawa, Takatoshi Yamaguchi, Shiro Nagai, and Gen Ichiro Soma. Applications of Lipopolysaccharide Derived from Pantoea agglomerans (IP-PA1)for Health Care Based on Macrophage Network Theory. Journal of Bioscience and Bioengineering102(6): 485‐496(2006)
この仮説では経口投与したLPSは直接体内に取り込まれて機能するのではなく、生体内の第2情報伝達物質を誘導して、この第2情報伝達物質が本質的な役割を果たすと仮定しました。その後、私たちの研究で、高脂肪食を投与して引き起こされるアルツハイマー型認知症が経口投与したLPSによりマイクログリアのアミロイドβ貪食活性を高めることにより予防できることや、同様に高脂肪食を投与して引き起こされる動脈硬化が予防できることなどが明らかになることで、この仮説が有望であることが示されてきました。しかし、経口投与したLPSと組織マクロファージをつなぐ生体物質が何かという点が不明のままだったのです。
ですから今後は膜結合型CSF-1に着目して経口投与したLPSが誘導するマクロファージネットワークのさらなる解明が期待されます。
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