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文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(18)
このシリーズではすでにアルツハイマー病を取り上げてLPSがアルツハイマー病の原因になるアミロイドβの除去に重要な働きをすることや、LPSの頭蓋内投与によって、アミロイドβの蓄積が抑制されることを紹介してLPSがアルツハイマー病を始めとする認知症に対して有用性がある可能性について述べてきました。
認知症はQOLが大きく損なわれることになるのですが、現在有力な治療法が確立はされていませんからLPSには潜在的に大きな期待が持たれると私は考えています。
アルツハイマー病以外でもQOLに大きな影響を与える病気が種々知られていますが、その中の一つに多発性硬化症(指定難病13)があります。
この病気は脳やせき髄の神経の軸索を取り巻いている髄鞘と呼ばれる絶縁体が何らかの原因で破損して、神経がむき出しになってしまうことによって起こると考えられています。要するに神経細胞がショートしてしまうのです。
通常このような髄鞘の破損は髄鞘を形成しているオリゴデンドロサイトという細胞の前駆細胞がオリゴデンドロサイトに速やかに分化して修復をすることで、疾患が発症しない機構が働いています。
多発性硬化症ではこの修復機構が不完全なために神経細胞が破損した状態が続くことにも問題があると考えられます。特に破損したミエリンは神経細胞の修復を強力に阻害することが分かっており、素早く除去しないと修復機構が働かないことになります。ですから、破損したミエリンの選択的貪食を行うようにマイクログリアやマクロファージの活性を高めることが多発性硬化症に対する新たな治療法を提供することにつながることも期待できます。
この点について、Jamie S. Church et al. 2017.Glia. 65:883-899
において、LPSと同様にTLR4に作用して機能を発現する物質(合成した物質でLPSのLipidA部分を模している。)を用いてこの物質が破損したミエリンの除去やシュワン細胞の浸潤と再ミエリン化を促進することを報告しています。
LPS自体では、この報告に先行して2016年にLPSは破損したミエリンの断片の貪食を促進することが試験管内の実験で報告されていますし、2007年には頭蓋内へのLPSの投与がオリゴデンドログリア前駆細胞の分化を促す作用があることも見出されています。しかしこれらのLPS投与方法は実際に多発性硬化症の患者さんに行なうには無理があるわけです。そこで、毒性を少なくして、LPSと同じ作用をもつ物質に注目が行くことになります。
一方私たちはパントエアのLPSを経口投与することで、マイクログリアの貪食能が高まりアルツハイマー病予防が図れることを見出しています。以上を考え併せるとパントエアLPSは経口投与は多発性硬化症にも有用性があるかも知れないと期待されます。
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