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文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(36)
Toll様受容体4はLPSの受容体として広く知られています。この機能は外部からの例えば細菌感染などの場合に生体防御に関わる役割を果たすという意味があることも良く知られています。
しかしどうやらToll様受容体は外部からの異物侵入に備えるための機構を超えて、生体恒常性の制御に関わることが本質的な機能であることを示す知見が最近よく報告されるようになってきました。
つまり発見当初は異物識別受容体として発見されたToll様受容体の本来の役割は発生や分化を含む生物にとって極めて本質的な機能と深い関係があって、むしろこの機能の方がToll様受容体の真の姿に近いということです。
私たちも、経口投与したLPSが様々な疾患の予防や治療効果を示すうえでToll様受容体4は必須であるけれども、この場合にもToll様受容体4の役割はLPSを認識するという機能だけではないことを示唆する結果を得つつあります。従ってToll様受容体の本来の役割の解明は極めて重要なポイントであることになります。
この点に関してPrince Felipe Research InstituteのMore-no-ManzanoらはToll様受容体2および4は、神経前駆細胞の自己複製および分化を異なる方法で制御していることを報告しました。
Toll-like receptors 2 and 4 differentially regulate the self-renewal and differentiation of spinal cord neural precursor cells Marina Sanchez-Petidier 1 2 , Consuelo Guerri 3 , Victoria Moreno-Manzano 4 Stem. Cell. Res. Ther 2022 Mar 21;13 (1):117. doi: 10.1186/s13287-022-02798-z
著者らはTLR2またはTLR4を欠損させると、新生児マウスのある特定の神経細胞数が有意に減少することを見出しました。
TLR2欠損神経細胞は自己再生の促進、増殖とアポトーシスの増加、神経分化の遅延を示しましたが、TLR4がない場合は増殖に影響を与えずに細胞の分化を促進し、長い突起のある神経細胞を産生しました。
TLR4欠損神経細胞では、TLR4に結合する因子や微小環境に依存しないメカニズムで神経発生プログラムの活性化に関与していることが示唆されました。
興味深いことに、TLR2およびTLR4が欠損した神経細胞ではTLR1の発現も著しく低下し、グリア細胞の一種であるオリゴデンドロサイト前駆細胞の成熟が阻害されたということです。
これらの実験が意味することはToll様受容体はどうやら協働して特定の機能を発現するというかなり複雑な機構で生体恒常性を維持することに役立っているに違いないということです。ですから私たちが取り組んでいる、経口投与したLPSによる種々の効果にもToll様受容体の多面的な機能が重要な働きを持つことを考えておく必要があると思われます。
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