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文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関
マクロファージと糖脂質の最近の話題(24)
これまでは脳の健康と免疫機構は無関係とされ、免疫の表れの一つである炎症は抑えることが医学の常識でした。
その常識に疑問を抱いて、パラダイムシフトを起こしたのが、シュワルツです。その後免疫と医学研究の流れは180度変わり、うつや不安の抑制、アルツハイマー症の予防や治療にも免疫系が重要な働きをしていると考えられるようになっています。
この点についてシュワルツ自身が執筆した一般向けの書物が昨年3月に刊行されています。題名は「神経免疫学革命──脳医療の知られざる最前線」でハヤカワから出版されました。シュワルツ,ミハル〈Schwartz,Michal〉/ロンドン,アナット【著】〈London,Anat〉/松井 信彦【訳】価格は2484円でISBN:784152097491
この本は一般向けに書かれていますので脳の機能を正常に維持する上で免疫機能がいかに大事かが良くわかる一冊として皆様に是非ご一読をお勧めしたいと思います。
この本は基礎的な部分から応用に至るまでの幅広い領域に渡っています。免疫系とアルツハイマーについても扱っています。
著者はアルツハイマーと筋萎縮性側索硬化症、脳腫瘍との類似性に着目して、普段は免疫系による持続的なパトロールのおかげで発病前は長い間休眠状態にあること、そして免疫系のバランスが崩れることで神経変性疾患が発病するという概念を打ち立てています。
当然ですが免疫抑制剤や抗炎症剤はアルツハイマーを改善することはできないのです。逆に動員された血液単球はアミロイドβを除去できること神経栄養因子の発現を増やすことで炎症を抑制できることを説明しています。
そうならばアルツハイマー病で治癒に働くMΦを脳に動員すれば良いことになります。どうすれば良いのか?それはまず脳と血管の間にある脈絡叢関門を活性化して→マクロファージを動員する、そうすればアルツハーマーを治癒に向かわせるマクロファージの濃度を病変部分で高めることができる。その結果アルツハイマー病が寛解すると述べています。具体的にいくつかの方法も提示しています。
さてLPSの経口投与がアルツハイマー症の予防や治療に有用であることは何度かニュースレターでも紹介してきました。LPSの経口投与がアルツハーマー症の予防や治療に有用であるとの発見は我々の研究室が世界に先駆けて行ったものですから、今後研究を積み重ねることでLPSの機能性の新しい一ページが開かれるに違いありません。しかしLPSの経口投与がどのような仕組みでアルツハイマー症の予防や治療に有用であるかに関しては未知の部分が多いのが現状です。
この仕組みを明らかにするうえでシュワルツの研究成果は重要な示唆を与えている可能性があるのではないかと考えています。今後の研究の進展が待たれるところです。
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