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研究背景

微生物成分と人の免疫機能との関係

共生細菌は宿主個体の生命活動の維持に深く関与していることが近年続々と報告されているが、進化の過程でいつごろから細菌群との共生が行われていたのかは定かではない。しかし、おそらくは多細胞動物が約10億年前に地球上に出現した時点で、細菌との共生が行われていたと考えるのが順当ではないだろうか。多田富雄先生が提唱されていたように、生物は本質的に環境に適して学習し、それに基づき変容していくが自己を維持していく特徴がある(1)。そうであれば、多細胞動物は細菌との共生という環境の中で進化してきたことから、多細胞動物は常に共生細菌とのクロストークを行って進化してきたものと考えられる。

最初に出現したと考えられている多細胞動物はカイメンであるが、構造的に極めて単純な形態であるカイメンでさえも共生細菌が存在し、カイメンは細菌から捕食を阻害する毒物を得ているとの報告がある (2)。このような微生物と宿主の共生関係が多細胞動物発生時点から続いていれば、必然的に情報を共有してきたと考えられるが、共生細菌由来の情報として多細胞動物はどんな物質を選んで来たのか、という視点でLPS (lipopolysaccharide)を考えてみたい。

細菌は基本的にはグラム陽性菌と陰性菌の2つに分けられる。グラム染色で脱色されない菌がグラム陽性菌で、脱色される菌がグラム陰性菌という染色性から分類されたが、その大きな違いは、菌体構造にあり、ペプチドグリカン層からなる厚い細胞壁を持つのがグラム陽性菌、細胞壁は薄くLPSを含む細胞外膜を持つのがグラム陰性菌ということになる。機械的強度の高い細胞壁(ペプチドグリカン層)は容易には分解されない。グラム陰性菌の構造について図1に例を示すが、細胞外膜の最外層に存在するLPSは二価金属イオンと疎水結合で接着しているだけなので、ペプチドグリカンと比較して簡単に剥がれ落ちる。このどちらを動物細胞は情報分子としてより簡単に利用できるかと言えば、LPSを情報分子として利用したことは、容易に想像出来る。

LPSはこれまで医薬の世界では、毒や炎症性物質としてのみ取り扱われてきた。確かにLPSを静脈注射して誘導されるサイトカインストームに代表されるような全身性の炎症という生物活性は紛れも無い事実である。しかし、進化の過程で多細胞動物が共生細菌とクロストークを続けて進化して来て得た生理的な機能を見ていないとも言える。共生細菌から提供される極めて利用しやすい情報分子としてLPSを紐解くと、特に食品成分として高い有用性を示す世界が見えてくる。

糖脂質(LPS)について

LPSはグラム陰性菌の外膜に存在する糖脂質であり、菌の生存に必須な成分とされている。脂肪酸とリン酸基を持ち構造的な保存性が高いリピドA、ケトデオキシコール酸を含む比較的構造的に保存性の高いコア多糖部、複数の構成糖が繰り返しつながり、その構造に多様性が高いO抗原多糖、の3つの部分からなっている。

<図1>
図1

LPSは極めて微量でマクロファージ活性化を誘導する。Dengらの報告ではわずかに5 pg/mlのLPS濃度でマクロファージをプライミング出来る (3)。このような高感度な反応はほ乳類だけではなく、カブトガニの体液に含まれる凝固系因子のFactor Cの活性化も数pg/mlのLPSで起こる。系統発生的にLPSに対する高感度化の保存性が見られる事から、高感度のLPS検出システムを持つことが多細胞動物の生存に有用であったことが伺える。例えば、外骨格系で血管系の無い節足動物では、外傷が出来れば、即全身への細菌の侵入につながる。高感度なLPS検出系により凝固系が素早く起動し、外傷からの細菌侵入を封じ込めることで生存に有利に働くと推定出来る。これらの反応は炎症の一種であり、炎症は局所化して起こることがその特徴とも言える。

LPSの高感度検出系は、1998年にTLR (toll like receptor)-4がLPSの受容体として報告され、その全容が明らかにされてきた (4-6)。TLR-4は腸管上皮、繊維芽細胞などにも発現されており、通常の食事に含まれる常在性のグラム陰性腸内細菌に由来するLPSが生体恒常性のシグナルとして利用されていることが、徐々に明らかになってきた (7-10)。

LPSのエンドトシキン作用について

LPSの発見はコレラトキシンの外毒素に対して、静脈注射によって激しい発熱、下痢、ショックを引き起こす、菌体に存在する毒素、いわゆる内毒素(endotoxin)として始まっている。LPSの静脈内注射はヒトではわずか4 ng/kgがMTD(最大耐用量)である。多くの研究において、LPSは敗血症のモデルとして、また、炎症のモデルとして用いられてきた。注射剤にLPSが含まれることを禁止した事から、医薬ではLPSは危険な物質であるとの確固たる認識が築かれてきたのは多くの方が御存知の通りである。

一方、我々はコメやムギ、ソバを初めとする多くの食用植物に、生体恒常性維持に関与するレベルの量のLPSが含まれていることを見いだしてきた (11,12)。これらの食用植物1 gの抽出液をヒトに静脈注射したら致死量を遙かに超えるLPSとなる。ところが、LPSは経口投与では毒性が見られず、ラットでは2 g/kgのLPSを経口投与しても、特段の影響はないことも見いだした (12,13) (図2)。経口投与で生物学的な効果が得られるLPS量は10μg/kgであることから、安全マージンは100万倍もある。つまり、静脈投与と経口投与では全く異なる制御系が働いていると考えられる。そもそも、静脈投与と経口投与を一緒に考えるのは異常である。例えば、食品添加物として豆腐や豆乳、チーズなどに使用されている塩化カルシウムは『毒性が弱く、不安はない』とされているが、静脈内投与のMTDは3.5 mg/kgとされている。また、クエン酸の静脈内投与のLD50値はマウスで42 mg/kgとされている。さらに、乳酸菌をすり潰して静脈注射すれば、ショックを起こす。つまり、経口という摂取方法と静脈注射という投与方法を同一に考えても良いのは、限られたものであって、食品などは全く異なる制御機構が働いている。

<図2>
図2

LPSをマクロファージに添加してTNF-αやNOを誘導する系を炎症モデルとして使用し、抗炎症性物質をスクリーニングする系に使われるのも理解出来る。しかし、末梢血単球系や骨髄分化マクロファージを用いても組織常在性のマクロファージのモデルにならないことが多いので、あくまでも一般化されたマクロファージではなく、末梢血のモデルであることに注意が必要である。経口や経皮でのLPS投与の生理的な機能をin vitroで解析するのであれば、少なくとも、腸管や皮膚のマクロファージを用いる必要があると思われる。我々は、腸内での役割を解析するために、腸管マクロファージを単離したが、LPSに対する応答性が全く異なることを確認している (14,15) (図3)。

以上のことから、LPSは敗血症の一部を担っている分子であるが、それを経口や経皮などの経粘膜的な摂取に適応して考えると、LPSの重要な機能を見失うことになるのではないかと考えられる。

<図3>
図3

引用文献

(1)多田富雄「生命の意味論」新潮社 (1997/2/1)
(2) Wakimoto T et al., Nat Chem Biol. 2014 Aug;10(8):648-55.
(3) Deng H et al., J Biol Chem. 2013 Feb 8;288(6):3897-906.
(4) Poltorak A et al., Science. 1998 Dec 11;282(5396):2085-8.
(5) Hoshino K et al., J Immunol. 1999 Apr 1;162(7):3749-52.
(6) Kawai T et al., Immunity. 1999 Jul;11(1):115-22.
(7) Iida N et al., Science. 2013 Nov 22;342(6161):967-70.
(8) Muller PA et al., Cell. 2014 Jul 17;158(2):300-313.
(9) Montenegro D et al., Bioorg Med Chem Lett. 2015 Feb 1;25(3):466-9.
(10) Fukasawa M et al., PLoS One. 2015 May 15;10(5):e0126849.
(11) Inagawa H et al., Chem Pharm Bull (Tokyo). 1992 Apr;40(4):994-7.
(12) Taniguchi Y et al., Anticancer Res. 2009 Mar;29(3):859-64
(13) Inagawa H et al., Anticancer Res. 2011 Jul;31(7):2431-6.
(14) Nakata K et al., Clin Exp Immunol. 2006 Mar;143(3):484-93.
(15) Nakata K et al., Int J Colorectal Dis. 2006 May;21(4):339-47.

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