自然免疫制御技術研究組合
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経済産業省認可
文部科学省科学研究費助成事業指定研究機関

研究内容

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研究内容

本組合の技術研究開発は、LPSの広範なポテンシャルを鑑み、自然界に存在するLPSの糖鎖構造と機能の関連性を明らかにし、得られる知見に基づき、予防医学上望ましい機能を持つLPSをデザインし、最終的には合成によって同一規格のLPSを作製できるようにすることを目指している。

研究課題:
自然免疫を制御する有用糖脂質LPSの解析・合成・利用技術の開発

(1)有用微生物の探索と糖脂質LPSの抽出

グラム陰性菌やLPSは、意識せずに人間が長年摂取し利用してきていると考えられる。そこで、LPSはこれまでに認識されていない、新しい機能性食品素材として評価し直す価値があるのではないだろうか。我々は、一般の食品にどのくらいグラム陰性菌が利用されているか調べてみた。すると、生薬や海藻に乾燥重量1 gあたり数十μgになるLPS量が含まれていた。健康食品で摂取されている飲料群にも数μg/g程度のLPSが含まれていた (11,12) (図4)。小麦ふすまや胚芽を含む健康食品からのLPSの一日摂取量を計算すると132、180μgとなる。これらのLPSは食品に共生しているグラム陰性菌に由来すると考えられる。

<図4>
図4

食用品に含まれるグラム陰性菌についてはどのくらい知られているか調べてみると、醸造酢、カスピ海ヨーグルトの製造に欠かせない酢酸菌(Acetobacter spp.)や、テキーラ、ナタデココ、キサンタンガム等の製造に使用されているザイモモナス(Zymomonas spp.)、キサントモナス(Xanthomonas spp.)はグラム陰性菌である。また、タイのサラパオやフィンランドのライ麦パンのように発酵食品にエンテロバクター(Enterobacter spp.)や、パントエア(Pantoea spp.)菌が製造過程の発酵の一翼を担っている例が確認されている。これらのグラム陰性菌にはLPSが含まれている。我々は、酢酸菌にLPSが含まれていることを見出し、このLPSの経口投与が花粉症の発症予防効果があることを明らかにした (16,17)。また、キサントモナスから製造される増粘素材であるキサンタンガムはFDAから食品素材として認可され広く食品に利用されるが、これにもLPSが相当量含まれることを見出した (12)。これらのことから、製造過程でグラム陰性菌が利用されてきた食品も多いと考えられ、我々は意識せずに食品を経由して相当量のLPSを経口的に摂取していることが示唆される。

ところでLPSが日常的に経口摂取され、食経験を持つことは明らかであるが、これをもって現在ある食品を摂取することにより直ちにLPSによる機能性を期待することは難しい点がある。即ち、経口摂取されるLPSの質・量を明確にしなければならないという点である。これまでの我々の研究により、食品等には確かにLPSは含まれているが、どのようなLPSがどの程度含まれており、どの程度摂取されているかは全く不明である。食品に含まれるLPSはこれまで全く省みられていなかったことを考えれば当然である。しかし、LPSは個々のグラム陰性菌にあってLipid Aや糖鎖ともに構造的な差異が認められる (18-20)。その結果LPSの生物活性には質的な差が生じている。

従って、LPSの有用性を機能性素材として活用するためには、LPSの質を明確にすると共に、食品含量の規格化、予防効果や治療効果に関して用量活性相関等を明らかにし、効果発現最適化を計ることなどLPSの質と量に注目した設計がなされなければならないことは意識しておく必要がある。当組合では、食用植物、生薬などを探索し複数の新規有用グラム陰性菌と菌由来のLPSを分離同定し菌・LPSパネルを作成している。個々の菌・LPSに特徴的な生物活性を探索し、この利用技術を開発するとともに事業化を目指している。

(2)糖脂質LPSの糖鎖構造の解析(グライコリピドーム解析)と利用技術の開発研究

我々は、植物共生グラム陰性細菌であるPantoea agglomeransのLPSの糖鎖構造を明らかにし、ラムノースとグルコースからなる枝分かれのユニットを示した (19)。そして様々な疾病において、このP. agglomerans由来LPSの経口・経皮投与が組織修復・病態改善効果をもたらすことを報告している。動物モデル実験においては、LPS経口投与が、I型糖尿病予防効果(21)、高脂血症予防効果(22)、鎮痛効果(23)、胃潰瘍予防効果(24)、抗がん剤の作用を増強する効果(25,26)、アトピー性皮膚炎改善効果(27)、花粉症予防効果(17)、抗肥満・動脈硬化症改善効果(28)、アルツハイマー病におけるアミロイドβ蓄積抑制・認知能低下予防効果(29)等を示す (図5,6) ことを報告している。また動物病院の協力のもと、ペット犬への臨床試験を行い、LPS経口投与によりアトピー性皮膚炎が改善した症例も報告した (30)。さらに我々は動物実験にとどまらず、ヒト試験においてもLPSの効果を実証してきている。具体的には、手術疼痛の緩和効果(31)、アトピー性皮膚炎の改善効果(32)、糖尿病・高脂血症の予防効果(33,34)、中高年女性における骨密度低下の抑制効果(35)、血流改善効果(36)等がLPS経口・経皮投与で示されている (図7-9)。これらの研究は、経口・経皮など経粘膜で摂取されるLPS には生体恒常性維持効果があり、様々な疾病の治療に有用であることを示唆している。我々は現在、その背景メカニズムの解明も目指し研究を進行中である (37-39)。

<図5>
図5

<図6>
図6

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図7

<図8>
図8

<図9>
図9

その他、腸内細菌の有用性に関する研究から、グラム陰性細菌には抗肥満や抗アレルギーなどの効果が示唆される種類があることが報告されている (40-43)。また、皮膚常在性グラム陰性細菌にもアトピー性皮膚炎を抑制する作用があるものが報告されている (44)。これらの有用グラム陰性菌のLPSの糖鎖やリピドA構造を解析して、LPSの有用な機能と構造との相関性のパネル化を進行している。これによりグライコリピドームの構築を目指している。

(3)メディシナルケミストリーに基づく糖脂質LPS創薬の基盤技術開発

化学的あるいは酵素的な手法により、構造が明確で単一分子からなる有用LPSの構造活性相関に基づく合成技術を開発し糖脂質LPS創薬を始めとする有用LPS利用に資する基盤技術を開発する。現在、鹿児島大学学術研究院理工学域工学系 橋本研究室、鳥取大学農学部 一柳研究室との共同研究により、LPSの合成技術開発に向けた研究を進行中である (19) (図10)。

<図10>
図10

引用文献

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